直木賞候補に酒田出身の北重人さん

グルこぞ

2009年01月09日 09:01

 第140回(平成20年度下期)直木賞候補6作品がこのほど発表され、酒田市出身の作家、北重人さんの『汐のなごり』がその中の一作に選ばれた。選考会は1月15日に行われ、受賞作が発表される。
 『汐のなごり』は、江戸時代の酒田を舞台とする北さん初の短編集だが、ご本人が「自信作」と語っていただけに、どの作品も読み応えがある。
作品の趣は、ハードボイルドタッチの長編作とはかなり異なり、謎解きの要素をちりばめながらも、主人公の内面に深く迫った人間ドラマになっている。読み終えると、心が洗われるような、明るい希望が持てるような、そんな心地よい感じが残る。
何よりも、地元の人間にとっては、昔の酒田で実際にこんな物語があったのではないか、と思わせてくれるところがいい。
飢饉を題材にした「海羽山」では、極限状態の中、何としてもわが子を救いたいと願った親の愛情の深さに心を打たれた。「海上神火」では運命に翻弄されながらも、それに抗い、互いを思い続けた遊女と船頭の姿に、人間の美しさを感じた。また、ちょっとユーモラスな「塞道の神」は種明かしが冴えている。空米相場の世界を描いた「合百の藤次」はハードボイルド路線。相場の緊迫感や相場師の心理も伝わってきて面白い。
 今回、もし北さんが受賞すれば、1973年の藤沢周平さん、1999年の佐藤賢一さんに次いで、庄内では3人目、酒田市出身者では初めての受賞となる。個人的には、可能性はかなり高いのではないか、と思っている。